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macskatze

中東欧好きによる長いひとりごと

『ハーモニー/伊藤計劃』 感想

<emotion>
作者が言うとおり、これは一種のハッピーエンドなんでしょう。でも、ハッピーエンドだと私は思えなかった。
私にとってみればバッドエンドに限りなく近い結末だったのに。
感動したのではない。でも読み終えたとき心は確かに泣いていた。
震災前に書かれた物語だということが、この物語の凄まじさを強く印象づけるというか。病床の淵で作者は何を思って書いていたんだろう。
インスピレーションって大事だね。

人間とは、人間らしさとは何か。幸福とは何か。

大災禍の結果、「おとな」は一つの幸福を追い、疑うことも考えることもしない。「わたし」を守ろうとすれば「思いやり」の名のもとに押しつぶされて。統制されて、管理されて。穏やかに個が失われていくせかい。
極端な表現と思われる方はいらっしゃるでしょうが、この萌芽は私たちが生きている現実にも確かに宿っています。
アナログ世界でも、デジタル世界でも。SNSツイッターは特に、文字として目に見える形で残ることもあってよく現れている。思い当たる節をたくさん見かけている。

たくさんの真理への問いと作者の答えがそこかしこにちりばめられていて、上げたらキリがない。
それでもあえて挙げるならば、私の目に留まったものの一つは「何のために人は書くのか」という問いと答え。
作者はこのとき、すでに自身の死期を悟っていたのでしょうか。

読み継がれていってほしいと、願ってやみません。
往かれる前に書いてくださってありがとうございます。読んでよかった、今出会えて、本当によかった。
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 (2012年10月12日頃に書いたものの再録)